Colloquium for Young researchers in History and Philosophy of Science

科学史科学哲学若手研究会(仮称)

時間対称性の概念の新たな側面と量子論理の未解決問題

発表者:慶応義塾大学文学部 横尾剛

2010年第一回研究会発表要旨

時間対称化された量子力学 (Time-Symmetrized Quantum Mechanics,TSQM),あるいは,2-状態ベクトル形式 (Two-State Vector Formalism,TSVF) と呼ばれる形式 (以下,TSVF と略記) は,時間対称性 (time-symmetry) という哲学的な主題についての考察から発見された量子力学の形式で,通常の量子力学 (Conventional Quantum Mechanics,以下,CQMと略記) の生み出す予測はすべて再現しつつ,さらに,従来は不可能であると考えられていた「観測すると壊れてしまう重ね合わせの状態」の測定に接近することを可能にしている.

CQM と TSVF との比較を図式的に表すなら以下のようになる:

CQM : ( 強い測定 ) × Born 規則
TSVF: ( 強い測定 + 弱い測定 + 強い測定 ) × ABL 規則

CQM が Born 規則の時間非対称的な構造を含め,過去から未来に向けての時間発展のみが仮定された上で構成されているのに対して,TSVF では ABL 規則と弱い測定の弱い値の時間対称的な構造に端的に現れているように,未来から過去に向けての時間発展も合わせて仮定された上で構成されている.

事前選択集合と事後選択集合によって規定された弱い値が示す物理的な振る舞いの奇妙さに加えて,過去から未来だけでなく,未来から過去に向けての時間発展も不可欠な要素としている点で,TSVF は時間という概念についての我々の把握の仕方に根源的な変革を迫っているようにみえる.

TSVF は,現在,様々な側面から実験的,および,理論的な研究がなされつつあるが,また一方で,それらのことと並行して,物理学の概念的基礎,より具体的には,以下のような哲学的な主題に対しても新たな洞察をもたらすのではないかと期待される:

未来から過去に向けての逆向きの時間発展の物理的意味/「知識の消去」による未来から過去への影響/弱い測定による「実在の要素」/物理的性質が逆になった光子の存在 (負の値の確率) /事後選択から弱い値に向けての逆向きの時間での相関/パラメータとしての時間ではないオブザーバブルとしての時間/目的論的な振る舞いの物理的理解/時空間における閉じた時間的曲線 (CTC) /運動学と動力学という区別の解消/量子的な確率の概念の解釈/時間対称的な反事実的条件法/量子論理における 5 つの→の問題

今回の発表では,TSVF によって明らかにされつつある時間対称性という概念の新たな側面と量子論理における未解決問題との関係が,反事実的条件法のもとで考察される.

なお,反事実的条件法という主題は,哲学の主題の中では洗練されよく確立されたものとして知られているが,TSVFに対して物理学のコミュニティにおいてかつて提起された批判 (CQM と整合的ではないという批判) のほとんどは,この反事実的条件法を時間非対称的に捉えるという前提のもとでなされた論証であった.

 

 

Colloquim for Young researchers in History and Philosophy of Science

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